青田恵一の現代書店学 『よみがえれ書店』『書店ルネッサンス』『たたかう書店』 青田コーポレーション代表 青田恵一 「出版ニュース」コラムより 4.『棚は生きている 』
じつは「紙のようなもの」は、パピルスだけではなかった。『本の歴史』には・木の皮や石をはじめ、粘土板、蝋板、木板、骨、布、ヤシの葉、獣皮、金属なども例示されている。 しかしこれらが「本」になりにくいのは、どれを想像しても、すぐわかることだろう。 石の本・骨の本・金属の本…、とくると、使い勝手がよかったとは、ちょっと考えにくい。となればここで登場するのが、やはりパピルスであり、これを集めた“パピルスブック”なのであった。 もっともその姿は、いまとはだいぶ異なっている。同書はいう。「パピルスは折り畳みにくく、表裏両面に文字を書くことができない。そこで初期の本は、パピルスを何枚もつなげて棒に巻いた巻物の形で作られた」。ということは、巻物という形ではあったにせよ、ここに、「本」に近いものが生まれたのである。 ― 本の誕生。 「一冊の本」ができたことで、人は、時と空間を超えて、生活の知恵とか物語のロマン、ひいては、斬新な思想や価値観といった目に見えないものを、たくさんの人々に伝えられるようになった。 これを私は、“パピルスの夢”と呼んでみたい。 私は、この遥かなる夢を引き継いでいるのが、現在の出版、なかんずく書店だと思っている。書店は本を販売する。だが、その姿を通して、真に売っているのは、著者が「一冊の本」に渾身の思いで書き込んだ情報であり、文化であり、価値であり、理想である。さらにいうなら、これらから得られる読者の“幸い”でもあるだろう。 「一冊の本」に込められたものが“パピル久の夢”ならば、書店の棚は、まさしく、その夢が織り成すドラマの舞台といってよい。 つまり棚を通して、この夢を伝えつづけるということが、書店の仕事の根にあるものなのだ。だからこそ、書店人ば、いかなるときでも、棚づくりに賭けるみずからの夢と理想を、見失ってはいけないのだと思う。 それにしても、このことを担うには、本への“思い”に加え、棚に対する“愛と冒険”の精神、そして、棚を生かすノウハウ、スキルといったものも不可欠になるだろう。 本書には、これまで書き継いできたコラムと、書き下ろしのエッセイを収めた。これらの短文が、“パピル久の夢”を伝えるために、わずかでもお役に立てば、これ以上の喜びはない。 構成は、一応、章別のようになっているが、読書編集の感覚で、どのページからでも、自由にお読みいただきたい。 2006年7月14日 青田恵一 青田恵一(あおたけいいち)氏の略歴 八重洲ブックセンター、ブックストア談などで書店実務を経験。 現在、青田コーポレーション代表取締役。中小企業診断士。 書店経営コンサルティング・店舗診断・提案・研修指導。 著書に『よみがえれ書店』『書店ルネッサンス』『たたかう書店』『棚は生きている』がある。 発行元:青田コーポレーション・発売元:八潮出版社 注文先:青田コーポレーション Fax注文書:注文書(pdf/220KB) 発行:2006年12月20日 本体価格:1,900円・320頁 このページの著作権は青田恵一 が保持しています。 |