青田恵一のお勧めの一冊 下村彦四郎さんの『棚の生理学』が復刊された(!) 「新装版/ 棚の生理学」 下村 彦四郎 著 人件費をベースに考えた書店の動態的商品構成
そのうえで、この本は、現場の書店人に、読者と商品への“思い”を定め、奮起するようにと迫るかもしれない。たしかにここからは、みずからの頭で考え、みずからの足で歩こうという氏の呼び掛けの声が聞こえてくる。 その主張は、年代や定価といった数字、出来事さえ除いてしまえば、最近書かれたかのように“新鮮”にすら映る。専門書ジャンルが想定されていることも、ほとんど気にならない。 構成は3部。第1部「3尺棚1段から昨日よりも1冊たくさん売ったら」、第2部「ラッシュ商法〈人海戦術からシステムへの変更〉」、第3部「書店の明日をめざして〈書店の未来像〉」、これに「初めて工学書を担当する人への手紙」という売場入門書と他の論文が加わる。 第1部では、売上アップの基本を棚1段単位から発想しよう、第2部では、季節、時間、曜日、財布、天候、月別のそれぞれにおいてピーク対策を確立しよう、第3部では、専門の商品力を増客に結びつけようと訴えられ、その方法が提案される。ここには時代やジャンルを超えて変わらぬ「普遍性」が厳存する。具体的にいえば、機会損失に対するあくなき攻撃や膨大化する人件費への対応、なにより顧客満足と売上増大への執念 ――。 一応、工学書という前提はあるものの、売れる売場の一般条件も挙げられている。@市場の需要に見合った商品を揃える。A欠本調査に熱意をこめ、補充日数の短縮のために全力を尽くす。B工学書の展示スペースを充分に取って品揃えを厚くする。さいごに、C優秀な棚担当者。 これはもちろん、他のジャンルにも当てはまることだ。一見分かりきったようなこれらの原則も、みずからの店でどこまで貫かれているか、いっぺんチェックしてみたいもの。35年前、下村氏によって提起された問題は、まさにいま、店頭現場で解決する機会となって蘇る ――。投げられたボールをどこへ打てばいいか、それは私たちの課題となったのである。 『棚の生理学』の序文は、あの布川角左衛門氏の筆になる。そのなかに意義深い引用があった。 「書物を書くのは、らくである。…書物を印刷に付するのは、それよりもむつかしい。…書物を読むのは、もっとむつかしい。… しかし、この世に生きている人間の手がける仕事で、最もむつかしいのは、書物を売ることである」 思い返せば、この本から真に学ぶべきは、失われつつある書店人としての誇りということなのかもしれない。 (『棚は生きている』より 出版ニュース 2004年8月中旬号掲載) 申込先:〒272-0812 市川市若宮1-1-1 出版メディアパル Tel&Fax:047-334-7094 Email;出版メディアパル 発行:2004年8月15日 本体価格:3,000円・296頁 このページの著作権は青田恵一 が保持しています。 |